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あなたの塾では“ビリギャル”を受け入れるか?

幾つも教室を開いて一定の地域で展開している学習塾や予備校には、「どんな成績のお子さんでもお引き受け致します」とうたっているところがあります。
要するに、テストの点数が今はよくないからといって入塾を断ったりしませんよ、まずはうちに通ってみませんか、と親御さんの不安を払拭して良心的な姿勢をアピールしているわけです。

塾は全ての生徒に門戸を開くべきか?

もともとマンツーマンを売り物にしている個別指導塾であるとか、本支店を多く置いている中規模の学習塾でしたら、講師の指導陣もそれなりに充実していますから、エリート相手に難関校への挑戦を指導する先生のほか、これとは正反対の「勉強のできない子供」が専門の先生を採用・養成できる経営的な余裕もあるでしょう。

ただし、その甘い言葉とは裏腹に、受け入れることはできても、本人に寄り添って学力が回復するまで最後までとことん面倒を見てくれるかどうかは保証の限りではない、ということは覚悟しておかなければなりません。
狙い通り成績が上がれば喜ばれますが、教材や教え方が必ずしも本人に合っていなかった、そもそも生徒自身に真面目に勉強する気がなかった、といった理由から期待通りに成績は伸びず、結局生徒や親の意向で退会する場合もあるでしょう。

つまり、「誰でもOK」というのは入り口だけの話です。

あなたの塾はビリギャルを目指すのか?

100万部を超えるベストセラーとなった坪田信貴「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」(2013年・単行本でしたが現在は「角川文庫」にラインナップされています)は、「ビリギャル」が流行語になって映画化までされましたが、家庭教師もかくやと思われるほどの親身な指導とコンサルティングができたのは、それに見合うだけの授業料をとる学習塾だったからです。
この本に刺激されて同じような熱血指導を月謝数千円の個人塾に要求してくる親がいたら、まず断られるのは当たり前でしょう。

ビリギャル
新たに学習塾を始めるにあたって経営者が悩むのは、どのような「成績分布」の生徒を受け入れたらよいものか、という基本的な問題です。
お金のことを考えれば、入塾してくる子供が多いに越したことはないから、繁盛している学習塾を真似て、手当たり次第に入れてしまっても大丈夫なのでしょうか。

実は、「どんな学力・成績の子供がいるのか」と「どのような講師がどのような指導方法で臨んでいるのか」との間には密接な関係があって、これがうまくかみ合わないと、学習塾そのものがうまく立ち行かなくなる原因となるのです。

学習能力を均一化させるメリット

公立の小中学校では教諭が1クラスあたり35~40人を担当しますが、これは授業中に目配りの利く上限ということで、実際には、ずば抜けて成績の良い子や反対に勉強の遅れがちな子供への対応に手を焼くことも少なくありません。

学習塾の教室でも事情は同じでして、プリントやテキストで他の子がとっくに終わらせているのに立ち往生している子供がいれば、どうしても付きっきりになってしまいます。
塾教師としては、それが補習をするための目的だから生徒の足並みを揃えるためにもやむを得ない措置なのですが、他の生徒や親から「○○ちゃんにばかり…」と不満や苦情が来るというやっかいな副作用を生んでしまいます。
これは、家庭教師や個別指導塾で親の求めに応じて、2人クラス、4人クラスといった実際には「個別」ではない指導メニューを設ける場合にも、起こりがちなことと言えましょう。

私立の中学や高校(あるいは一貫校)で偏差値や進学率の高いところでは、主要な教科で3年間かけてやるはずの学習内容を2年で片付けて、あとは受験に特化した教育をしているところが数多くあります。
こうした「荒技」ができるのは、あらかじめ入学試験で一定の学力のある子ばかり受け入れ、成績に応じてクラス編成も柔軟に変化させることで、生徒の学習能力をある程度まで「均一化」させている、つまり、能力が同程度あるいは似ている子供たちを対象に無駄のない授業を一律に施すことができるからです。

同じ中学1年でも複数のクラスを設けて学力別に授業を進めることができたらそれこそ理想ですが、学習塾のビギナーとしては、たいてい教科と学年で1コマずつの教室から始めるのが普通でしょう。

普通の子の成績をアップさせる戦略

先に紹介した私立の進学校みたいに、最初はそこそこ同じような学力の子供たちを相手に授業をするのが楽として、どのくらいの成績の子を選んだらよいのでしょうか。

経営者や講師が地元の進学校や有名大学の出身であることをアピールしたら、いきなり学年でトップ・クラスの子が何人も入ってきたとします。
初年度から当塾では○○高校に何名合格しました、と自慢したくなりますが、もともと頭の良い子がいただけでして、この塾で育った「生え抜き」ではないのですから、塾のセールス・ポイントになると過信するのは危険です。

むしろ、実際の数では大多数を占める「中間層」の子供を指導して、それなりに成績が上がるような状況をつくらなければ、塾の評判はさほど上がらないのではないでしょうか。
いつも90点とっている子は、いくら教えても100点どまりですが、60点の子が75点や85点取れるように教えてくれる学習塾ならば、本人はもちろん親にとってもインパクトは強いわけで、それだけ口コミも期待できます。

つまり、ごく普通の子供相手の補習塾にとって一番「おいしい」ターゲットは、そこそこ勉強しているが成績が今ひとつの普通の子供に勉強のやり方を改善させ、点数アップにつなげるという戦略こそ、塾や講師にとってもまず取り組みやすいし、対象人数も多いから経営的にも助かる、という凡庸ながら着実な方針なのではないでしょうか。

普通の子を揃える戦術は?

そうなると、「成績の良い子が来てくれたら歓迎するとして、どうやって『並み』か『その上』ぐらいの子供をそろえることができるのか?成績の悪い子は入り口で断ってしまってよいのか?」といった疑問も出てくるでしょう。

大学受験の大手の予備校では、志望校が同じでも「一般」と「特進」といったクラス分けをして、「特進」に入りたい生徒には試験にパスすることを要求します。
その場合、〝本番〟の試験問題みたいな難しいものは出さず、中学・高校までの基本的な事項に絞り、これからの指導にちゃんと付いてきてくれるかどうかをチェックするわけです。

入塾テストをするかしないか、経営者の裁量で自由にできる塾と本部の方針は絶対であるフランチャイズとで異なる場合もありますが、高レベルの進学塾を目指すのでもない限り、小学校高学年なら1~3年相当の内容、中学1年生なら分数や小数など小学校できちんとマスターしておくべきことがらを中心に出題してみるのも一つの策です。

テストで切り捨てるのは忍びないし、親から嫌がられるのではないか、という懸念があるとしたら、他にもやり方はあります。新しい年度が始まる直前の春休みあたりに、無料の体験ゼミを開いてみましょう。
前の1年間にやったテスト問題で難しかったものなど持ち寄ってもらって、いくつか実際に解かせたり説明したりすることで、それぞれの子供たちは、他の子たちがどのくらいの頭なのかという「品定め」ができて、多少自信の無い子は入塾をためらうものです。「類は友を呼びます」から、夏、冬、春とこれを定期的に続けて行けば、ある程度まで似た成績の子が集まってくるでしょう。

それでも「ここに入れて勉強させたら成績は上がるかもしれない」と学業不振児を無理矢理押し込もうと企てる保護者もいるかもしれません。通知表やテストの答案などを持参せず「成績は普通です」「いつも真ん中ぐらいだったかしら」などと親御さんが言い放つようでしたら、おそらくその子の成績はかなり下の方だと見て間違いありません。その場で問題をやってもらった上で「他の生徒と一緒でなくてもよろしいですか」と確認してみましょう。それでも是非にということでしたら、個別指導塾クラスの料金を提示して塾長自ら指導にあたれば、新たなビジネス・チャンスになると同時に、先生にとってもよい勉強になります。

ただし、注意しておきたいのは、人数をこなすのが学習塾の宿命ですから、基本はあくまでも多数派である「中間層」の成績アップを前面に打ち出すことです。親切心が嵩じて成績の悪い子をたくさん受け入れているうちに「あそこはバカが行く塾だ」と噂が広まって生徒が激減してしまった…という失敗談もお忘れなく。

一般論として、まず学習塾がターゲットとしたいのは、頭の良い子や悪い子ではなく、あくまでも「伸びしろのある子」だと心得ましょう。