開業

教室の準備から生徒募集まで

場所が決まり、ターゲット、授業や講習の内容など、色々アイデアが固まってきたら、事業計画書でお金の動きを把握した上で、いよいよ開設の準備に取りかかります。

フランチャイズへの加盟や開業コンサルタントに相談するのでない限り、かなりの手順を自分の判断や裁量で決めて行かなければなりません。
ここは資金の準備、不動産の契約、教室の改修、看板類の設置といった大道具はひとまず省略します。

 

学習塾の労働環境向上は指導内容に影響

教室で、まず問題となるのは机と椅子です。
「個別指導塾」の場合、会社の商談室みたいに間仕切りやボックスで小部屋をたくさんつくり、それぞれに机と椅子や照明を設置するのが普通ですから、同じ部屋を講習やゼミに使い回しするのは現実的ではありません。
子供のいない昼間に部屋を遊ばせておくのももったいないので、Wi-Fiの設備を入れてパソコン教室などの「副業」に活用するのも考えてみたいところです。

その点、ホワイト・ボードに椅子、可動式の机の「学習塾スタイル」は、塾以外のセミナーや講習にも使えますし、「コ」の字に並べたら講師も動きやすく少人数に目配りの利いた個別指導塾にも早変わりです。
個人経営の場合は、まずはこのタイプから始め、少しずつ授業の種類や数、さらに「支店」の数も増やして行くことになります。

 

さて、生徒の教室がもっぱら俎上にのぼりがちですが、住宅を改造した個人経営の学習塾も、入塾案内や学習相談の際に保護者と面談するための個室や、講師の控室、さらには経営者の事務室は必要です。もちろんスペースの制約から、応接室と控室を兼ねたり、教室にコピー機を置かざるを得ない場合もあるでしょう。
小規模塾では、教室の片隅で講師がコンビニ弁当をつついているようなところもあるようですが、食事の時間にまで子供たちがまとわりつくようでは休憩にはなりません。
労働環境の向上は指導の内容にも影響します。アルバイトの学生であっても別に部屋を用意してお茶を出すくらいの心遣いは必要です。

 

意外とモノ要りな教室の設備関係

開業当初は30~40人規模の生徒を念頭に置いていても、最初に用意する事務機材は大人数のところと大差ありません。
文房具、ファイル、教材の作成や生徒の出欠その他のデータを管理する名簿、会計の帳簿類を取りまとめるパソコンとプリンター。
それに電話とファックスは、保護者との連絡に必要でしょう。
高性能のコピー機をリースするか、家庭用の複合機で十分なのか、判断の迷う所です。
インクジェットのプリンターでは、消耗品にかなりのコストがかかってしまいます。

少人数の教室でも、早く終わった子に、他のドリル類をコピーして追加の問題をやらせるといった場面もあるので、専用コピー機はけっこう活躍するものです。
生徒が増えれば、印刷する紙の枚数も増えます。コスト的にもレーザープリンターの導入も検討せざるを得なくなるでしょう。
講師が就業時間内にテストの採点や教材の製作などを担当するのであれば、専用の事務机を用意して差し上げたいところです。

 

税務や保険関係の届出も忘れずに

学習塾の開業に官庁の許認可や届け出は必要ありません。
しかし開業する場合、所轄の税務署に「開業届出書」「青色申告承認申請書」、さらに従業員を雇ったり家族を従業員として給与を支払う場合には「給与支払い事務所等の開設届出書」その他の書類を提出しなければなりません。

また、従業員の雇用形態によっては、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険に関して、それぞれの官庁に問い合わせる必要があります。
たとえアルバイト学生でも、就業時間によっては雇用関係の手続きが必要ですので、トラブルにならないよう確認しておきたいものです。

なお、ビルの一角にテナントとして入居する場合、消火器、火災報知器の設置、避難誘導路その他の確認といった消防署の検査も受けなければなりません。大切な子供たちの安全とも関わってくることですから、責任を持って臨みたいところです。

このように、どんな指導をしようかという話以外にもあらかじめ解決しておくべき事柄はどんどん出てきます。
チラシや広告の文面・図柄から始まり、問い合わせてきたお客さんにもっと具体的に塾のコンセプトやセールスポイントを知ってもらうためのパンフレット類、各種申込書、領収証、室内外の注意書きや張り紙、…。
しかし、「教務」「宣伝」のほかにも重要な文書づくりが最後に待っていることを忘れてはいけません。

入学時の申込手続やお金の話をいい加減にしない
かつて、自宅の空いている座敷に机と座布団を並べ子供を集めて珠算や書道を教えるような塾では、親が子供を連れて来て「今日からよろしくお願いします」…親から預かってきた月謝袋の中身を改めると「○月」の欄に捺印する…というのが昭和の原風景でした。
今ではこんな大雑把なやり取りをしていたら「まだ正式に契約していないから全額返せ」といったトラブルになりかねません。

現在では、この種の紛争を事前に防止する意味もあって、(仮)入学の手順や授業料の支払い、途中でやめる場合の返金について、などなど保護者との間に取り交わす細かい「規約」を事前に設けて、入学時は「同意書」「誓約書」への署名捺印を求めることが多くなってきました。
(仮)入塾申込書の書式や各種ルールをどのように定めておけば良いのか、あるいは「いったん入金した授業料は一切返金しません」といった文言には法律上の問題はないのか?といった詳しい情報は、学習塾の事業者の団体が開設しているサイトや弁護士のブログなどを参照するとよいでしょう。

信頼を得るためのちょっとした演出
おしまいに、どんな教室にするのかと思いめぐらす中で、一工夫こらしておきたいコツを一点ほど。
それは、生徒さんたちに直接解いてもらうプリントやテキストの他に、辞典、図鑑、教科書、参考書、問題集、受験雑誌などの「資料」が詰まった本棚を保護者や入塾希望者の目に触れる形で用意しておくということです(ただし、「教科書ガイド」は生徒や保護者の不審を買うので入れないこと)。

一見、無駄な投資のように感じられるかもしれませんが、ここの塾はフランチャイズの本部から送られてくるペーパーをただ機械的にやらせるようなところではなくて、先生たちが日頃から問題研究をしており、ここならではの指導法やテストづくりも考えているらしい、と親の目には映ります。
また、特に好奇心の強い子供にとって、自分の持っている以外の他の会社の教科書や参考書、見たことのない難しそうな問題集が置いてあって、学校の図書室とは違った面白さがありそうだな、と感じるかもしれません。他の主要5教科も多少置いてあったり、さらに小学生なら中学、中学生なら高校の教科書には、興味が湧きます。
もちろん、英語や数学では手に負えませんが、国語、社会、理科などは賢い子なら背伸びして読んでみたくなるものです。
一方で、講師にとっても自己研鑽用の資料を買いそろえなければならない負担から解放されて、職場環境にもプラスとなること間違いありません。

こういうちょっとした演出こそ、塾の姿勢を外部の人にはっきりアピールできる恰好の材料となります。
もちろん、初年度から壁一面に本やファイルをびっしり並べるのは無理ですし、全部新品で買いそろえるのも大変ですから、一部はチェーンの新古書店で調達したり、中学受験や高校受験を済ませた知人の子供から譲ってもらうという手もあります。
参考書に書き込みがあるのを生徒に尋ねられて「これを使っていた子は○○高校に入ったんだよ」と教えて、自分たちもこんな勉強をすれば好きな学校に入れるのかな、と子供たちが夢を廻らすきっかけをつくることにもなるでしょう。

準備を重ねて行くうちに施設もだんだん整ってきます。
開校の日程が決まったら、その前に(生徒の親に限らず)近隣の住民を対象に「こんど学習塾をオープンすることになりました。
どんなことをやるのか、○日の○~○時は教室を開放しておりますので、ぜひ見学にいらして下さい」と狭い範囲でも構わないのでチラシなどで呼びかけてみるのも一つの方法です。
これは、「口コミづくり」の重要な出発点となります。
この他に、保護者や生徒向けの催し物として、説明会、無料講習会、体験ゼミといった「お試し」「お見立て」の機会をいくつも用意し、まず知ってもらうことから始めましょう。
もちろん、最初は「紙爆弾」だけで思うように人が集まるとは考えにくいので、あらかじめ知人の子供に友だちを連れて来てもらうとか、地元の商工会に相談したり、既に塾を開業している経営者から助言を受けるなど、ネットワークづくりを併せて着実に進めておくことも、指導そのものの準備と並んで学習塾の経営を成功させるために欠かせないことは言うまでもありません。

筆 者